祗是未在

ソゾタケの仏像日記

真覚寺 薬師如来倚像(八王子郷土資料館寄託)―白鳳時代の銅像薬師如来

      2014/04/22

多摩の仏像についても折に触れて書いて行きたいと思う。

東京都の西部・多摩地区は、戦争での空襲被害が都心部に比べて少なかったということもあって多くの古仏を遺している。しかし、多摩地区の市では最大の面積を誇る八王子市は、東京西部の中堅都市ということもあってか市街地に大きな空襲の被害を受けている。八王子近隣の山間部のお寺は被害を受けていないだろうが、市街地に関しては焼けてしまってもおかしくはない。しかし幸いにして、この市街地でも古仏が遺されている。その内の1体が、今回紹介する真覚寺の薬師如来倚像である。

真覚寺は西八王子駅から南西に2キロのところにある古刹であるが、薬師如来像は現在、八王子市郷土資料館に寄託されている。

八王子郷土資料館は、八王子駅の西2キロほどのところにある。建物はかなり古く、昔ながらの郷土資料館、という感じだ。私が訪れた時は来客も全くいなかった。入口では、ボランティアらしいおじいさんたちが暇をもてあますように椅子に座って談笑していた。

薬師如来像は、1階の展示室の中央、2階へ上がる階段の登り口の位置で、ガラスケースに入っていた。やや暗いのだが、すぐにボランティアさんが「電灯つけようか?」と明るくしてくださった。

 

薬師如来倚像(白鳳時代) 銅像 像高22.5cm 八王子市指定文化財

薬師如来倚像全体

小さいと聞いていたが、思ったよりは大きかった。ほんのりと微笑んでいる。アルカイックスマイルとはまたちょっと違う感じであるが、とても優しいお顔だ。至る所に金箔が残っているが、これはいつの時代のものかはわからない。

左斜め前から

 

螺髪はつけず、(たがね)か何かで打ってへこませて表現している。銅像仏でのこうした頭部の表現はよく見られる。肉髻が大きい。

 

体は横から見ると薄く、脚部両側に出っ張った形の衣紋はかなり平坦な表現であり、正面観を重視した飛鳥時代的な雰囲気を思わせる。時代的には飛鳥後期と言えるのかもしれない。ただ、地方仏は中央に比べるとやや時代が遅れた造形になることが多いこともあるので、白鳳時代というのは正しい評価なのではないだろうか。足は台にのせ、お尻を少しだけ椅子にかけて座っているような形だ。

側面より

 

この像で一番気になるのは、である。

普通、薬師如来は右手を施無畏印、左手を与願印に結び、その左手に薬壺を持っている(古式では薬壺は持たない)が、この像は薬壺を右手に持ち、さらにやや高めに捧げるようにしている。また、左手はまるで触地印のように膝に置くという、特異な造形をしている。

下半身

 

飛鳥時代の薬師如来と言えば、法隆寺金堂の釈迦如来の脇侍と、法輪寺の木造薬師如来が有名であり、どちらも薬壺は持っていない古式の表現であるが、薬壺を持つ手にあたる左手は、手のひらを上に向けて膝上におく与願印で、そのまま薬壺を置ける形だ。そして右手は施無畏印を結んでいる。この2体はいずれも北魏様式で真覚寺像とは時代も様式も違うと思われるが、同じ白鳳時代の薬師如来の代表である薬師寺の薬師如来も、やはり左手は与願印で膝の上に置き、右手は施無畏印だ。真覚寺像と同じ白鳳時代の倚像である正暦寺の薬師如来もやはり同じ形である。

となると、この像の立ち位置はどこになるのかが気になってきた。

考えられるのは、手から先が後補、ということだろうか。銅像ということからしても、造形を見る限り右手を上げ、左手を下ろしていたことは間違いないだろう。後補ということなら、右手は本来は施無畏印で、左手に薬壺を持っていたのかもしれない。

空海が招来したという伝説があるそうなので、ひょっとすると大陸の仏像である可能性もある。

資料が少くてよくわからないが、論文等が出ていないか、もう少し調べたいと思う。

正面斜め下より

僧祇支の結び目の矛盾や衣紋の造形も気になるところであり、小さいながらもなかなか奥深い像である。

穏やかな表情、なで肩でやや前傾しているところ、衣紋の造形のやわらかさなど、全体的にとても優しい雰囲気が伝わってくる薬師如来である。おもわず微笑んでしまう、そんな暖かい仏さまだと思う。

 

右斜め前より

 

【八王子市郷土資料館

〒192-0902 東京都八王子市上野町33
TEL:042-622-8939
開館時間9:00~17:00
入場料金無料
アクセス:JR八王子駅南口から徒歩15分/JR八王子駅南口から「東京家政学院」行、「上野町三丁目」下車徒歩3分。
駐車場:かつてはかなり広い無料駐車場があったが、平成25年より道を挟んだ南側の駐車場(18台)に移っている(有料か無料かは未確認)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)・祝日の翌日・年末年始。その他、館内整理日等のため臨時に休館する場合があり

※薬師如来像は、特別展がある時など、しまわれてしまう時もあるそうなので確認したほうがいいと思われる

 - 関東地方, 白鳳時代, 銅造、金属製, 如来, 地方仏, 博物館,美術館, 仏像, 東京都, 多摩地区

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

上り口
金剛輪寺(滋賀県愛荘町)— 湖東三山開帳② とてつもないパワーを秘めた「生身の観音」

西明寺を後にして、湖東三山の二山目である金剛輪寺へ向かう。

三重塔
西明寺(滋賀県犬上郡甲良町)— 湖東三山開帳① 量感たっぷりな薬師如来立像

阿修羅ブーム以来かな、という気がするが、ここ数年来、各地で仏像をテーマにした特別 …

不空羂索観音坐像
南円堂特別開扉(奈良県奈良市)―康慶による原点回帰の堂々たる観音

今年の春は奈良がアツい!興福寺がアツい! 普段は1年に1日のみ、10月17日にし …

放光寺天弓愛染
山梨県立博物館(山梨県笛吹市)―「山梨の名宝」展

東京も多摩地区に住んでいると、山梨県は近い。渋滞さえなければ車でも電車でも1時間 …

長谷本寺(奈良県大和高田市)ー長谷寺観音の当初の姿を遺すという美しい十一面観音

置恩寺から再び奈良盆地の中央へとくだり、大和高田市の市街地へと入る。 大和高田市 …

大智寺
大智寺(京都府木津川市)―橋柱で作ったという美しい文殊菩薩

同行の友人からの情報で、壽法寺から奈良へと戻る途中、木津川を渡ったすぐ南にある大 …

十一面観音 顔近影 左側面
置恩寺(奈良県葛城市)―絶妙なバランスで立つ凛々しき観音

2日目は4つの寺院を巡る。 まずは奈良盆地の南西、葛城山の山裾にある置恩寺へ。 …

十一面観音近影 左側より
西念寺(奈良県天理市)— 宿院仏師の凜々しくも美しい長谷寺式十一面観音

  宿院仏師。仏像好きでも、この名前をあまり耳にしたことがない人は多い …

観音菩薩に後光が
西井戸堂妙感寺(奈良県天理市)― 天平時代の塑像の心木を収めた鞘仏

唐招提寺のあとは、近鉄奈良駅近くのさくらバーガーで、東京から来た友人3人と合流し …

大日如来上半身
阿日寺(奈良県香芝市)— 恵心僧都生誕の地に広がる来迎ワールドと独特な魅力を湛える大日如来

恵心僧都・源信といえば、『往生要集』を著したことで知られる。この書は、後に法然や …