祗是未在

ソゾタケの仏像日記

立石寺(山形県山形市)―50年に1回のみのご開帳、堂々たる薬師如来

      2015/10/06

山寺ご開帳フライヤ

今年、山形がアツいのは、間違いなく立石寺、通称・山寺のご本尊である薬師如来が50年に1回の開帳を迎えるためである。慈恩寺の開帳もこの開帳に合わせたものだろう。

4月末の開帳スタートから、どのくらいの混雑なのか気になってニュースやツィートなどを見てきたが、土日は混むものの、平日はそうでもない、という感じであった。

平日に訪れる予定を組んでいる私としては、これなら大丈夫かな、と思っていたのだが、開帳期間が終わりに近づくにつれ、どんどんと混むようになってきているという情報が流れてきた。しかし今さら日程を変えるわけにもいかないので、この日に山形を訪れたのであった。

午前に訪れた慈恩寺は人が少なかったが、山形を代表する仏像を有する慈恩寺であっても、やはり知名度でも交通の便でも山寺の開帳には及ばないこともあり、果たしてどのくらい混んでいるかはつかめない。逐次、訪れている人のツィートなどを確認しつつ、いよいよ山寺へと向かった。

山寺周辺は、山から下ってきたばかりの立合川に沿った谷戸にあり、駐車場はあまりないということはわかっていたし、お寺近くの駐車場は混雑必至ということで、手前の河原の大きな駐車場に停める。

山寺 河原の駐車場

この駐車場はまだまだ空いていたが、それでも普段の状態からすればかなりの混雑ぶりだろう。

駐車場近くではスッとまっすぐに手を伸ばした”横断ガール“がお出迎え。

飛び出しガール

山寺は初めてではない。10年ほど前、地元の友人と18きっぷで山形へ来た時に寄っている。しかしずいぶん昔のことだし周辺風景のことはもう忘れているため、懐かしいという感じはしない。

無駄にイケメンな案内坊さん看板。
イケメン僧侶看板

駅からの道が右から合流するあたりから俄然人が増えてくる。ご高齢の方の団体さんが数多くゆっくり歩いていたりするのを追い抜きつつ根本中堂へと向かう。土産物店が並ぶ場所あたりまで行列になっている写真をよく見ていたが、幸いにしてこの日はここでの行列はない。

山寺というと、長い石段や里を見下ろす風景が有名だが、それは奥の院の風景であり、主要伽藍は麓にある。本尊薬師如来坐像を安置する根本中堂もそうだ。前回来た時についてもやはり奥の院の風景しか記憶に無く、根本中堂に寄ったかどうかも覚えていない。

その根本中堂へと上がる階段の下あたりから行列が始まっていた。警備員さんが最後尾の札を持っているのでそこに並ぶ。
石段前の行列最後尾

この時点で14時前だったが、とりあえずこの階段からは40分ということは聞いていたので問題なく拝観はできそうだ。根本中堂への行列半ば

拝観券は500円。これで奥の院までも行けるということで、特別開帳であるのになかなか良心的だ。

拝観券

お堂に入ってからもクネクネと行列が続くが、思ったよりもずっとスムーズに進む。

根本中堂内の行列

内陣に入ると、堂々とした立派な厨子があり、本尊・薬師如来坐像が姿を現した。

立石寺本尊薬師如来坐像

薬師如来坐像(平安時代初期)一木造 国重文 像高130cm

開帳が50年ぶりということもあって、巷に流れていたフライヤでも、仏像の写真だけはどれも白黒だった。それしか写真がなかったそうだが、その写真から受けるイメージでは、目がパチッと開いたオジサンっぽい雰囲気、と思っていた。

しかし実物を見ると、さすがの平安仏で、どっぷりとした量感とともに、薄様の衣紋もよく、写真で見るよりもはるかに素晴らしいと感じた。左足から結跏趺坐の真ん中へと垂れている衣紋がやわらかくてとてもいい。肉髻が大きい。目は半眼ではなくしっかりと前を見据えている。白黒だとちょっとユーモラスに見えた顔だが、実物ではそういうイメージはなかった。

しかしゆっくりは拝観できない。ものすごい数の人たちが並んでいるので、歩きながら合掌しつつ拝観するしかなった。

木の色が赤マツのような色をしているが、桂材の一木造ということだ。像高は130cmということなので、半丈六ということになるだろうか。それよりもずっと大きく見えるのは不思議である。

 

根本中堂を出て玉こんにゃくを食べる。慈恩寺ではからしをあまり塗ってもらわなかったので、今回は「からしたっぷりね!」とお願いした。美味しい。

玉こんにゃく

玉こんを食べてから、久しぶりに奥の院へと向かう。深い森の中に続く石段の左右には石仏や石碑などがたくさんある。西国三十三箇所の石仏もあった。これは29番の松尾寺の馬頭観音のようだ。

松尾寺馬頭観音の石仏

仁王門をすぐ下の位置から見る。非常に窮屈な場所に建てられているのがわかる。

立石寺仁王門

ちょうど藤の花が満開だった。4月に奈良に訪れてから1ヶ月。奈良でも藤が盛りだったが、そこから北上してきたのだろう。下から見上げて撮ってみた。

藤の花

30分ほどで大仏殿まで上り切った。前回はもっと大変だったイメージだが、登り切ってみると思ったよりもずっと近く感じた。

振り返ると納経堂が屹立とした岩の上に立っているのが何だか迫力がある。

納経堂

五大堂から麓を見下ろす。
5月の薫風とともにここまで登ってきた気持ちよさが身体を吹き抜ける。

五大堂からの眺め

 

再び下って根本中堂前まで戻ると、閉門まであと30分ほどとなったということもあり、誰も並んでいなかった。せっかくの機会、ゆっくり拝観したかったのでもう一度入堂することにした。

今度は10名弱の人たちがお厨子の前にいるだけなのでじっくりと止まって拝観する。

ちょうど近くにいたお坊さんとあれこれと話しながら詳しく教えていただく。

その中でも、とりわけ印象的だったのは次の3つの話だ。

一つ目は震災の時の話

一昨年の東日本大震災では、ここ山形でもかなりの揺れだったという。しかし薬師如来は50年に1度しか開けられないということもあり、お厨子の中ではどうなっているか心配だったのだが、いざ開けてみると、一切動かず、本来の位置にいらっしゃったという。前回のご開帳のときに写真をコッソリ撮った人が次々亡くなったという伝説もあるほどの薬師如来だが、さすがのパワーといったところか。

次に、脇侍について。

薬師如来は平安時代の作だが、現在の脇侍である日光・月光菩薩は江戸時代の作である。本来の脇侍は損失したわけではなく今でも現存しており、実は東京にある。江戸時代に幕府の命で江戸・寛永寺へと移されたというのだ。その代替として制作されたものが現在の立石寺薬師如来の脇侍で、幕府直々に制作しただけあってかなりの完成度である。

現在、寛永寺に安置されている日光・月光菩薩は秘仏であり、開帳日は定められていない。しかし、私はその話を聞いた時に、東京国立博物館の特別展で過去に見たことがある、と、ふと思い出した。2006年の「最澄と天台の国宝」展に出展されていたのだ。

 

寛永寺薬師三尊像

寛永寺薬師三尊像(「最澄と天台の国宝」展図録より)

 

つまり、私は幸運にして、立石寺に本来あった三尊像を拝観できた、ということになる。本尊が50年に1度の開帳であり、脇侍は東博の特別展出展が、今後おそらくもうないと言われる一般拝観の機会だったことを考えると、相当に幸運だと思う。

 

木屎漆を守られた薬師如来の目

 

そして最後が、薬師如来の目について。

半眼ではなくしっかりと見開いた目をしているこの薬師如来であるが、50年前に開帳した時は違う表情をされていたという。

いつそうなったのかはわからないようだが、それ以前の時代に、目が開きすぎているということで、瞼に木屎漆(こくそうるし)を盛って、あえて半眼にしていたというのだ。

右の写真が盛っていた時のものだが、はっきり言ってこちらのほうが怖い(笑)50年前のご開帳時の調査の際にその木屎漆を除去して、平安時代そのままの姿に戻られたのだそうだ。

今のほうが何倍もいい顔をされている。

どのくらい長く木屎漆を盛られていたのかはわからないが、50年前に取り払われた時、きっとお薬師さんも、「あーすっきりした、よく見えますなぁ」と思ったかもしれない。

 

最後にじっくりと拝観できて本当に良かった。白黒写真のイメージと大きく違って、なかなか良い平安仏であった。

 

何十年に一度、という開帳は、仏像を拝観するという観点からすると、正直なところあまり期待はできない。秘されていた時間の長さに価値が置かれ、仏像がどんな造形なのかということはあまり重要視されていないからである。もちろんそれはそれでとても尊いのだが、いい仏像だったなぁ、という感動には出会えないことの方が多い。しかしこの山寺の薬師如来は素晴らしかった。もう私が生きている内にはお会いできないだろうが、タイミングによっては一度も会えないという方もいらっしゃるはずで、私は良き縁に恵まれたと思う。

 

日も傾きかけた河原の駐車場に戻り、この日の宿泊地である蔵王温泉へと車を走らせた。

宿に到着し西の空を見ると、快晴の空を豪快にオレンジ色に染めた夕日が、この充実した1日の終わりとともに沈んでいった。

蔵王温泉から見た夕日

立石寺(山寺)

〒999-3301 山形県山形市山寺4456-1
TEL:023-695-2816
拝観料:300円(奥の院)
拝観時間:8:00〜17:00
拝観:本尊薬師如来坐像は50年に1回の開帳(次回は2063年)
駐車場:寺周辺にいくつかあり(すべて有料)

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 - 弘仁・貞観時代, 一木造, 如来, 仏像, 山形県

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