祗是未在

ソゾタケの仏像日記

山梨県立博物館(山梨県笛吹市)―「山梨の名宝」展

      2015/10/06

山梨の名宝展看板

東京も多摩地区に住んでいると、山梨県は近い。渋滞さえなければ車でも電車でも1時間弱ほどで、南アルプスの峰々に見下ろされるような広々とした甲府盆地へと下っていくことができるだろう。

山梨には数多くの素晴らしい仏像がいる、ということは折にふれてここで書いてきたが、そうした仏像の一部や、山梨県の至宝が集められた特別展が山梨県立博物館にて開かれているということで、いつものように中央道を西へと車を走らせた。

土日の中央道といえば、とにかく渋滞で有名だ。この日は渋滞覚悟で9時くらいに出たのだが、やはりすごい渋滞。まず八王子インターのレーンをくぐれない。ほとんどの車がETCであるせいか、ETCレーンが渋滞していて、一般レーンはガラガラで通り抜けていくという皮肉。ETCレーンを通らないと割引にならないわけで、これはある意味、仕方のない状態だ。

談合坂サービスエリアのスタバで、オケの友人に頼まれていた地域限定の富士山マグを自分の分もゲット。赤富士バージョンもあるそうだが、それは売っていなかった。

スタバ地域限定富士山マグ

 

ちょくちょく渋滞にはまりつつ、3時間近くかかってようやく山梨県立博物館に到着。駐車場はガラガラ、構内にも人はほとんどいなくてとても静かだ。

山梨県立博物館

建物は予想以上にきれいで驚いたが、2005年にできたばかりなのだという。

山梨の名宝掲示

 

建物に入るとすぐにチケット売り場があり、チケットを買うと係員が特別展の入口まで案内してくれた。

それにしても人が少な過ぎはしまいか。

福光園寺の吉祥天坐像の大きな写真でお出迎え。山梨の素晴らしい仏像の中でも、やはり福光園寺の三尊は抜きん出ていると言えるだけに、これも納得の扱いということになるだろうか。

山梨の名宝展入口

印象的なものをいくつか挙げていくことにしよう。

 

大善寺 薬師三尊像(平安時代初期)像高86.7cm(薬師如来)、102.6cm(日光菩薩)、101.8cm(月光菩薩) 国重文

写真は以前のエントリでもアップしているので、ここでは顔のアップを。

大善寺薬師如来顔

(「祈りのかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

 

味わい深いお顔をされている。大善寺の薬師三尊は、普段は5年に1度、1週間程度の公開なのだが、今年については、10月上旬の本来のご開帳の他にも、10月中旬に特別開帳があり、そして10月末から12月頭まではこの山梨県立博物館へとご出座になっているという、かなり特別な状態だ。

お堂で拝見するよりもやや遠目ではあるものの、そこは博物館の良さで、いろいろな角度から明るい中じっくりと味わう。横から見ようとするとタペストリーがかかっていたが、その隙間から見ると、やはりかなりの「リクライニング如来」であった。

 

放光寺 愛染明王坐像(天弓愛染)(平安時代)像高89.4cm 国重文

放光寺天弓愛染

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

以前、放光寺でお会いしたことがあるが、放光寺ではまるで牢屋のような格子の中に入っていて遠く、照明の関係で顔が影になってしまったりする状態ということもあり、今回こうしてしっかりと間近で拝観できたのは嬉しい。天に向かって弓をひく天弓愛染(てんきゅうあいぜん)は「衆星の光を射るが如し」という「金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祗経」に書かれている部分を忠実に再現しているのだという。

放光寺天弓愛染

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

天弓愛染は日本に3体のみ(他には京都・神童寺、和歌山・高野山金剛峯寺)という貴重なものだ。とりわけ、この放光寺像は平安時代の作で、日本で最も古い天弓愛染像と言われる。放光寺で拝観した時は遠くてよくわからなかったが、間近で、弓引く手に顔を遮られない角度で見てみると、その忿怒相は、素朴ながらかなりカッコイイ。

 

明王寺 薬師如来立像(平安時代)像高43.3cm 国重文

薬師如来立像

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

最初見た時はちょっとずんぐりしててかわいいな、というイメージを抱いたが、よく見るとなかなかよくできている。施無畏印の手が大きいが、その手はとてもリアルで繊細。暖かそうで、ちょっとハイタッチしたくなってしまう手だ。

やや傾げた形の首であるが、半眼というよりは下を向いているように見え、暖かそうな施無畏印と大きな薬壺で十分に衆生を救ってくれそうなのに、なんだかあまり自信なさげな雰囲気にも見える。そこがまた何とも味わい深い雰囲気だったりもする。Y字状衣紋といい薬壺を持つ左腕から垂れ下がる衣の表現といい、小さいながらも雰囲気のある像である。

 

瑜伽寺 十二神将像(鎌倉時代)像高80cm〜90cmほど

瑜伽寺 十二神将

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

かなり破損がひどく、表情もわからないものも多い。鎌倉時代、という雰囲気もあまりわからないのだが、この像のすごいところは、瑜伽寺にはもともと塑像薬師三尊および塑像十二神将が古代より存在していて、それを元にして木彫で制作されたのではないか、と考えられているということである。つまり、鎌倉らしい雰囲気ではないのも道理で、これらは古様で作られているということになる。

瑜伽寺 十二神将像

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

造形そのものは、慶派の源流ともいえる平安時代末の南朝仏師・成朝の作と推定される放光寺仁王像とよく似ており、この十二神将も成朝の作という説もある。元となったという塑像は破片しか残存しない状況(下記参照)からして、その姿を伝える存在としてとても貴重だ。しかし塑像薬師三尊に塑像十二神将とは、考えただけでウットリしてしまう組み合わせだ。

瑜伽寺 塑像残欠(天平時代)

瑜伽寺 塑像残欠

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

上記のとおり、瑜伽寺にはかつては塑像の三尊塑像の十二神将がいたと思われるようであるが、これがその残欠である。上の写真が胸と両腕の上腕部、下は衣紋と見られる。体部の状態はこれだけでは全くわからないが、衣紋の造形はなかなか美しいことがうかがえる。江戸時代の銘のある箱に破片が数多く入れられていたということで、復元すると等身大の如来と脇侍になるという。

この塑像は残欠ではあるものの、非常に貴重と言えるのが、右腕と思われる部分に金箔が見えることから、これらは焼損していないと見られることだ。中央ではなく、各地に残る塑像の残欠は、寺が焼亡したことで素焼きのテラコッタになってヤキが入り、土中に埋められても土に帰らずに発掘されたものがほとんどだ。瑜伽寺のものは経年により破損したか、倒れて破損したために取り除かれたと思われる。塑像を研究していた者としては、地方で塑像が出てくるというだけでもワクワクしてしまうが、テラコッタではないものが出てくるというところまでくると、これはもうドキドキしてしまう。

 

宝珠寺 大日如来および四波羅蜜菩薩像(平安時代)像高100.4cm(大日如来)、その他四尊は78.7〜79.4cm 国重文

宝珠寺 大日如来座像

大日如来座像(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

宝珠寺 四波羅蜜菩薩

四波羅蜜菩薩像(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

5体そろったこの雰囲気はすばらしい。統一感もある。やや白みのかかった茶で、独特な存在感と雰囲気を醸し出している。

ただ、1体1体をじっくり拝見すると、目をはじめとして彫りがきわめて浅く、また指もあまりにも細かったりと、やや全体的に薄い雰囲気だ。照明の当て方が良くないのだろうが、写真で見ていた時のような感動はなかったのは何だか残念だ。

 

栖雲寺 中峰明本坐像(普応国師坐像)(南北朝時代)院尊・院広作 坐高82.7cm 国重文

中峰明本坐像

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

明本は中国の高僧ということで、日本には来ていないものの、中国に渡って弟子になった日本僧もおり、栖雲寺の開祖である業海もその1人だそうだ。尊像は鑑真和上像くらいしか興味がなくてほとんど知らないのだが、この像は非常によくできていて、生きている感じがする像であった。

 

福光園寺 吉祥天および二天像(鎌倉時代)蓮慶作 国重文

以前のエントリで写真はアップしているので、ここでは図録から二天像の全身像を。

福光園寺二天像

(「祈りとかたち-甲斐の信仰-」展 図録より)

仏像コーナーの最後の部屋にドーンといらっしゃったが、やはり圧倒的な雰囲気だ。さすが山梨を代表する仏像だけあって、造形のレベルの高さは比類がない。博物館の照明で拝見すると、より色みがわかってまた違う味わいだった。

茨城の五浦のようにすごい迫力の特別展ではなかったが、拝見したことのない数々の山梨の仏像と対面することができ、山梨の仏像の素晴らしさの一端をまた改めて感じることができた。

博物館のホワイエへ出てくると、色づいてきている紅葉がなかなかきれいだった。

山梨県博の庭

 

さて、博物館を出て、そのまま山へと車を走らせる。行き先は福光園寺である。

福光園寺の主たる吉祥天および二天像は先ほど拝観したばかりで、メインの仏像は今はお寺にはない。それでも福光園寺へと向かったのは、仏はんこ師・nihhiさんの個展が福光園寺で開かれているからだ。今回、私がこの個展のフライヤのデザインを担当させていただいたのもある。

博物館でも、入口の最も目立つところにフライヤを置いてくださっていた。

仏はんこ展のフライヤ

福光園寺も秋の粧いであった。例によっていい眺めだ。

福光園寺からの眺め

 

お寺に着くと、博物館のフライヤを見て来た、という先客の親子がいらっしゃった。なんだか嬉しい。

仏はんこ展

福光園寺仏像のご祈祷つき特別バージョンの絵はがきもあったので購入。

特別バージョンの祈祷つき絵はがき

 

ご住職の奥様に丁寧にお礼を言っていただき、お見送りまでしていただいて帰路についた。

そういえばお昼を食べていないことに気づいてほうとう屋に寄ったものの、土曜日ということで激混みだったので諦め、上りの談合坂サービスエリアで遅い昼食。このサービスエリアでも売っている信玄餅で有名な桔梗屋の信玄プリンがなかなか美味しいので、ぜひご賞味あれ。

信玄プリン

山梨県立博物館

〒406-0801 山梨県笛吹市御坂町成田1501-1
TEL:055-261-2631
開館時間:9:00〜17:00(火曜休館)
入館料:500円(常設展示)
アクセス:JR中央線 石和温泉駅からバス約10分、甲府駅からバス30分
駐車場:あり(無料)

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