祗是未在

ソゾタケの仏像日記

正楽寺(奈良県北葛城郡広陵町)―堂々たる像高2m超の十一面観音

      2014/03/01

法隆寺のある斑鳩から三輪山方面へと、現在の地図上でも斜めに走る道がある。これはかつて、聖徳太子が明日香磐余から馬を走らせて斑鳩へと通った「太子道」の名残だという。 私は子どもの頃からこの道をよく通り、法隆寺から桜井へと抜けたものだ。

その太子道の広陵町のあたりで南へ少し下ったあたりに、水路に囲われたこんもりとした森があり、その中に八坂神社がある。

拝殿のすぐ後ろの角に、なぜか狛犬のようなものが片側だけ置いてあった。

八坂神社背後の狛犬

おしりがかわいい。

八坂神社本殿背面の狛犬のおしり

その八坂神社のすぐ西側に正楽寺観音堂が立っている。

正楽寺本堂

この地区はその名も「古寺区」と言うらしい。現在は八坂神社と分かれているが、おそらくもともと神社と神宮寺という形で同じであったことだろう。八坂神社というもの自体が本来は祇園社であり、牛頭天王と素盞鳴尊が習合した存在を祀っていたものだ。

到着すると、元気な奥様3人組が底抜けに明るく、暖かく迎えてくださった。

靴を脱ぎお堂の中に入ると、それだけで独特な空気感がある。見ると、大きな厨子の扉が開かれており、その中に堂々たる観音の姿があった。

 

十一面観音菩薩立像(藤原時代〜鎌倉初期)ヒノキ材寄木造 像高200cm超 県指定文化財

本堂内部

資料によれば、単調な肉取りや浅く刻んだ衣の表現は平安末期の南都における作風を表しつつも、衣紋の表現の硬さから鎌倉初期作と考えられるということである。体内の墨書から、僧永覚の縁者の祈願のために造られたことがわかっている。

十一面観音 右側から

左手に水瓶を持ち、右手に錫杖を持っているので長谷寺型であろうと思われるが、本来、この錫杖は持っていなかったと考えられるそうだ。ということは長谷寺型ではなく一般的な十一面観音であったということだろうか。

水瓶

台座も、後補ではあるだろうが、やはり長谷寺型とは違って蓮弁の上に立っている。さらによく見ると、錫杖そのものが手に触れておらず、持っていない。蓮弁に挿して立ててあることに気づいた。やはりもともとは長谷寺型ではなかったのだろうか。そうなると、どういう理由で長谷寺型にしたのだろう?という疑問も出てきたりもする。

十一面観音像全体

 

少し沈鬱に眉をひそめる表情が印象的だ。半眼で瞑想しているというよりは、目を閉じて何かを唱えているようにも見える。大きく立派な姿もさることながら、この表情にとても惹かれた。

十一面観音近影

仏像というものはその姿を前にして、救いを求める時こそ本当の姿が見える、ということを大学生の時に彫刻家として著名な橋本堅太郎先生(文化功労者)に奈良で教えていただいたことがある。その通りに、仏像は暖かい表情であったり、時には厳しく叱咤激励したり、そして美しい表情でいて、私たちの気持ちが救われたり背筋をしゃきっと伸ばしたりできることが多い。

しかしこの仏像は少しばかり様子が違う。考えてみると、菩薩は修行の身であり如来へと進む過程。我々をただ救ってくださるだけではなく、我らと一緒にいろいろと考えながら共に進んでいくような、そんな雰囲気をもった観音菩薩であると感じた。

それにしても堂々たる体躯である。手首にはめた腕釧が大きく幅も広くてなかなか立派だ。

十一面観音像 左側から

仏像も素晴らしいが、厨子がまた素晴らしい。扉の内側には扉絵があり、左右12体ずつの24体の仏の姿が描かれている。この厨子の雰囲気の良さと十一面観音像とのコントラストが素晴らしく、お堂の中は独特な雰囲気が流れている。しかしこの仏画、阿弥陀来迎の二十五菩薩のようにも見えなくもないが…。もともとは違う仏像が入っていたという可能性もあるのだろうか。

厨子の扉絵

世話役のおばさま3人衆は本当に明るく楽しかった。数多くのお寺で世話役の方には本当にお世話になっているが、女性3人組というのは初めてであり、さらにこんなに明るい方というのも初めてだった。

その世話役の方が、「隣の小さな厨子にはお釈迦さんが入ってみえるんだわ。ちょっと開けてみていいよ」、とびっくりな発言。おそるおそる扉を開くと、中には、灌仏盤に入った小さなかわいい誕生釈迦仏がいらっしゃった。

誕生釈迦仏

 

しかしこのお堂の雰囲気の良さは何だろう。仏像や厨子の素晴らしさ、お堂の歴史ある雰囲気。そして何と言っても、地域の人が大切に守り続けいてるという気持ちが満ちているのだろうな、と思う。

お堂の隅に座って「どうしよ、ウチら説明なんてでけへんよ」「みんな詳しく知っとるからウチら余計なこと言わんほうがええわ」とクスクス笑う明るいおばさまたちの自然な佇まいからも、観音とともにあるこの場所が、この地区の人たちの日常の一部である大切な場所という雰囲気が伝わってきた。

十一面観音菩薩 下から

 

正楽寺

〒635-0815 奈良県北葛城郡広陵町古寺
TEL:0745-55-1001(代)(広陵町教育委員会文化財保存課へ問い合わせ)
拝観:要予約(広陵町指定の申込書に記載して申し込む)普段も格子戸越しに外から拝観できるらしい
拝観料:志納
アクセス:近鉄田原本線箸尾駅下車 徒歩25分
駐車場:お堂の前や神社北側から入ったあたりに駐めることができる(無料)

 - 藤原時代, 鎌倉時代, 寄木造, 菩薩, 仏像, 奈良県

Comment

  1. 迦楼馬 より:

    素晴らしい十一面観音ですね!
    いいお顔をされています。
    乾漆像のようにも感じたりするなぁ天平仏のようだ。
    このお寺って兄の家のすぐ近所です!
    こんなところにもいらっしゃるんですねぇ。
    全く知りませんでした。
    これは早速にでもお参りしたいですね。
    素晴らしい情報をありがとうございます!

  2. 迦楼馬 より:

    あ、あと
    写真がハンパはく綺麗ですね。
    見惚れてしまうような美しさです。

  3. ソゾタケ より:

    >迦楼馬さま

    いつもありがとうございます(^^)
    そうなんです、この表情に結構惹かれました。確かに天平っぽい堂々たる雰囲気ありますよねー。
    しかしお兄様のすぐ近所とは!僕ももう長年、この近くを通ってきたのに全然知りませんでした。
    奈良ってホント、懐深いですね。

    写真のこともありがとうございます!(^^)/

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