祗是未在

ソゾタケの仏像日記

旧白米寺収蔵庫(奈良県磯城郡川西町)— 見事な衣紋の堂々たる地蔵菩薩

      2014/08/06

生まれてこの方、奈良に通うようになってからずいぶんと長い年月が経っているが、その多くは奈良市、斑鳩町、桜井市、室生村、明日香村など、著名な寺院や遺跡のある場所だ。それ以外の場所というと、あまり知らないのが実情である。

今回訪れた場所は、川西町(磯城郡)にある。川西と聞くと兵庫県川西市のイメージがあるが、奈良の川西は大和郡山市の南、天理市の西側に位置している。

白米寺(はくまいじ)、もしくは白米蜜寺(くめみつじ)は、かつてこの一帯にあった大寺院であったそうだ。川西町下永地区は集落が東西の2つに別れているようで、地域を斜めに横切る大和川を挟む形になっている。1つの集落は大和川の右岸(北側)で京奈和道路の東側にある教願寺一帯の東方(ひがしんぼう)であり、もうひとつは大和川の左岸(南側)の西寄りにある東城(ひがしんじょう)である。その東方に、地図にも載っていない小さな八幡神社があるが、その辺りに白米寺は伽藍を構えていたらしい。近世に廃寺となり遺物は離散し、石造物は東方の教願寺に、仏像は東城のこの八幡神社の収蔵庫に収められている。その収蔵庫を訪れた。

下永地図

 

奈良市から南へ、ゆくゆくは有料道路になる予定の京奈和道路の高架の側道を通り、途中から右折。昔ながらの小さな集落の中の細い道を通り、八幡神社南正面の鳥居の前を一旦通り過ぎて、1本西側の路地を北へと入って行くと、神社脇の集会所のようなところの前に車を駐めることができた。奈良市街からは40分ほどであった。

駐車スペース

神社前の駐車スペース

 

八幡神社の鳥居。

八幡神社の鳥居

大きな神社ではないが、境内は広場のように広い。その境内の一角に旧白米寺収蔵庫がある。

収蔵庫

少し早い到着であったが、すでに世話役の方が到着されていて掃除をされていた。お礼とご挨拶をして早速拝観させていただく。

 

地蔵菩薩立像(弘仁時代) クスノキ材一木造 像高161.0cm 国指定重要文化財

地蔵菩薩全体

 

思わず、「おおお〜」と歓声を挙げてしまった。写真で見ても素晴らしいことは知っていたが、実物は想像以上に堂々としていた。

地蔵菩薩左斜め前

遠目で見ても圧倒的なパワーが伝わってくる。衣紋のY字紋やその量感のある造形からしても平安時代前期の作であることがよくわかるが、全体のまとまりの良さや造形のバランスは、さすがは国指定重要文化財!と納得させられるものがある。足が長く、スタイルはかなり良い。

地蔵菩薩全体 斜め前

衣の着方は、両肩を覆う僧衣である偏衫(へんざん)の上に、さらに右肩を折り返して覆うという形をとっており、奈良の法隆寺地蔵菩薩像橘寺伝日羅像安産寺地蔵菩薩像などが同じ様式となっており、同時代の奈良の地域によく見られるという。

衣紋の彫りは深く、時には平らにもなりつつ細かく刻まれており、この上なく美しい。カーブに微妙な抑揚があり、身体の形に合わせて衣紋が波打つ様がよく再現されている。右足と左足の衣紋がわずかに違うところに、踏みだそうとする足の動きもよく表されている。左手から垂下する衣紋のヒラヒラ具合もいい。

地蔵菩薩 衣紋

平安仏の立像を斜め後ろから見るのが私はとても好きなのだが、水を流すかのような美しいシルエットと衣紋には見とれてしまう。

地蔵菩薩斜め後ろから

顔はかなりゴツい感じであるが、やや中央にパーツが寄っている。しかし目、鼻、唇と、それぞれのパーツはインパクトのある造りになっていて存在感はかなりのものだ。

地蔵菩薩 腹から上

目がかなり鋭く、厚ぼったい唇とも相まって厳しい表情に映る。とりわけ目の中央から目頭への立体的なカーブには惹きつけられる造形のパワーがある。

地蔵菩薩近影 斜め右から

まぶたの上部から一段盛り上がったところと、鼻の上あたりから円弧を描く眉と思われる刻まれた線との間に少し隙間があり、ちょっと珍しい造形かもしれない。

真横からよく見ると、顔の部分だけ別パーツになっているものを矧ぎ付けたようにも見えるのだが、これは修理の影響なのだろうか。ちなみに白毫は後補である。

地蔵菩薩 横顔

現在は錫杖を立てて持っているように見えるが、実はよく見ると手が触れているだけで持っていない。これは後補であることがわかっており、本来は錫杖のないタイプであったと考えられている。先日訪れた広陵町の正楽寺十一面観音も、長谷寺式かと思いきや、やはり錫杖と手が離れていたりしたが、後から錫杖を持たせるという例は地蔵菩薩や観音菩薩によくあるのかもしれない。

地蔵菩薩 手

解説では左膝から下に翻波式衣紋があると書かれているが、確認できなかった。むしろ、右肘の後ろの衣紋にそれと見られる衣紋があった。

地蔵菩薩 翻波式衣紋

足のぷっくりした雰囲気の造形もいい。この地蔵菩薩は足も立派で、素足感がなかなかすごい。

地蔵菩薩 足

 

 

阿弥陀如来坐像(藤原時代) ヒノキ材寄木造 像高144.2cm 国指定重要文化財

阿弥陀如来 全体

はれぼったい半眼の、平安時代後期の定朝様阿弥陀如来である。解説にあるように確かに頭が大きめだが、パースと言われればそうも思える程度のアンバランスさであろうか。むしろ、身体が縦に少しだけ長いというか細いようにも見える。卵のようなかなりのなで肩であることもそう思わせる原因だろうか。

阿弥陀如来 近影

伏せた目の感じや、丸い顔などがいかにも藤原様式であるが、下弦の月のような目がやや形式的な造形にも見える。とは言え、見れば見るほどそのやわらかい曲線美には見とれてしまうものもある。左腕からの結跏趺坐への衣紋の流れがまた美しい。

阿弥陀如来 結跏趺坐

 

収蔵庫ではこの2体に目を奪われるが、よく見ると左側に何体もの仏像が並んでいるのに気づく。

その他仏像

 

不動明王および二童子像(鎌倉時代)ヒノキ材寄木造 像高51.5cm(不動明王) 奈良県指定文化財

不動明王全体

 

典型的な不動十九観様式の立像である。身体は引き締まっていて足も長いが、顔は結構丸顔で何となく親しみやすい雰囲気だ。衣紋の造形もとてもきれいだが、それ以上に截金(きりかね)がきれいで目を引く。

不動明王 下から

 

火焰光背は不動明王をとりまくように立体的でなかなか迫力がある。だが、どことなく優しいお顔のせいか、圧倒的な雰囲気というよりは暖かみを感じてしまう。剣が妙に小さなところもまた、いい味を出しているのかもしれない。

二童子もかなり独特だ。かなり痛んでいる状態だが、なかなか個性的で、小さいこともあって何だかかわいい。

制多迦童子(せいたかどうじ)はちょっとイケメン。

制多迦童子

矜羯羅童子(こんがらどうじ)はちょっと怖い。

矜羯羅童子

それ以外では、特にこちらの観音菩薩立像らしき仏像に惹きつけられた。かなり斜めに立っている。

観音菩薩立像

かなりの痛みで、顔は鼻はそげ落ち、身体にも大きな割れが入っている。腕先や足先、宝髻は後補であろう。しかし体部からは平安仏の雰囲気が伝わってくる。下半身はやや直線的であるものの、二重の条帛は古い表現であり、また、上半身の体部のやわらかい肉厚感もきれいだ。

顔も部分的に遺っているだけなのだが、しかし何とも優しい、美しさが伝わってくる。この残り方を見ると、ひょっとしてこれは木心乾漆なのでは?とも思ってしまったが、残っていない部分が完全に削ぎ落ちていてそう見えるだけのようだ。

観音菩薩近影

少し下から眺めると、わずかに身体をくねらせているようで、少しだけ秋篠寺の伎芸天を彷彿とさせるものがないだろうか。

観音菩薩上半身

 

収蔵庫の外に出て世話役のお二人といろいろとお話ししていたら、ぜひ神社前の狛犬も見て欲しい、と言う。こちらは江戸時代後期、孝明天皇から「日本一の石工」と賞賛された丹波出身の「丹波佐吉」の作品であるという。なかなか堂々としていてカッコイイ。巻き毛の表現が素晴らしいが、これが佐吉特有の表現なのだという。

狛犬

阿形は正面から見るとニコッと笑って、嬉しそうにハフハフしてるようにも見える。

狛犬 阿形

 

私が狛犬を見ている間に収蔵庫の鍵を閉めていた世話役のお二人が「お茶でも飲んで行きなさるか?」と仰って下さった。ありがたかったが、時間の都合上、残念ながらそちらは丁寧にお断りしたところ「気ぃつけていきなされよ」と、暖かい笑顔で見送ってくださった。

 

旧白米寺収蔵庫(きゅうはくまいじ・しゅうぞうこ)】

〒636-0201 奈良県磯城郡川西町下永
TEL:0745-44-2214(川西町教育委員会)
拝観:要予約(川西町教育委員会へ問い合わせ)
拝観料:志納
アクセス:近鉄橿原線結崎駅下車 徒歩10分
駐車場:八幡神社前の集会場前のスペースに3台ほどなら駐車可能(無料)※周囲の道はかなり狭いので通行には十分に注意

 - 弘仁・貞観時代, 藤原時代, 一木造, 寄木造, 定朝様, 如来, 菩薩, 明王, 天部, 仏像, 奈良県

Comment

  1. せきどよしお より:

    先日はお会いできてうれしかったです。ありがとうございました。
    リンクもつけていただいているのですね。よろしければ相互リンクとさせていただいてよろしいでしょうか。

    旧白米寺収蔵庫のお地蔵さま、すばらしい仏像ですね。写真もまたいいです。
    ぜひ行ってみたいと思いました。

  2. ソゾタケ より:

    >せきどよしおさん

    ご訪問ありがとうございます!感激です。

    先日はお会いできて本当に嬉しかったです。いろいろと教えていただきありがとうございました。
    相互リンク、ぜひよろしくお願いします。

    白米寺のお地蔵様すごいボリュームですよね。圧倒されました。さらに最後に載せた
    ボロボロですが観音様がまた何とも言えず美しいですね。地域の方もとても良くして
    くださいましたよ。ぜひぜひ。

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