祗是未在

ソゾタケの仏像日記

弥勒教会(茨城県笠間市)— ゴージャスな衣紋をまとった堂々たる弥勒仏立像

      2015/02/05

タチアオイ

近くに咲いていたタチアオイ

関東一都六県のうちの一つである茨城県というと、水戸納豆水戸黄門のイメージが強い場所であろう。その水戸黄門はドラマの影響もあり、勧善懲悪のスターのように考えられているが、少なくとも仏教にとってはそうした存在ではなかった。菊蓮寺のエントリでも書いたとおり、明治時代よりもはるか昔の元禄の時代に、光圀は水戸藩内の廃仏毀釈を行っているのである。茨城県は、元禄と明治との2回も、凄まじい廃仏毀釈の嵐に苛まれることになったということである。

とは言え、この地域には板東観音霊場の多くを有しており、また多くの素晴らしい仏像たちも有していることは、このブログの過去のエントリからもおわかりいただけているのではないかと思う。今回は仏像リンクのツアーで訪れた中からご紹介しようと思う。

笠間市には笠間稲荷という著名な大神社の他にも、正福寺(旧・観世音寺)板東観音霊場23番であり、鎌倉時代の千手観音を有していたりと、なかなか歴史深き町でもある。その市街からは北へ離れた丘陵地帯に弥勒教会がある。教会とはいってもキリスト教のものではなく、信者の人々が集う、というような意味であるという。

周辺の風景

バスは入れない山村の道を歩き、さらに森の中へと入っていくと収蔵庫が見えてきた。すでに世話役の皆さんが待っていてくださった。

(写真の撮影は特別な許可を得ています)

弥勒仏立像(鎌倉時代・1247年)像高177.0cm ヒノキ材寄木造り 玉眼 国指定重要文化財 

弥勒如来 正面下から

この像は「笠間六体仏」と言われたうちの1体である。笠間に本拠を置いていた鎌倉幕府の有力御家人・宇都宮氏の一族、笠間(藤原)時朝は仏教に対してかなり信仰が厚く、京都・三十三間堂千体千手観音のうち2体を、御家人としては唯一、奉納している。三十三間堂の千手観音のうち、鎌倉時代の作で寄進者がハッキリとしているのは、この笠間時朝のみだという。

弥勒如来 上半身

時朝は笠間地域に6体の仏像を寄進しており、これが笠間六体仏と呼ばれるわけであるが、この弥勒教会の弥勒仏立像の他、現存しているものは楞厳寺(りょうごんじ)の千手観音立像岩谷寺の薬師如来立像の3体となっている(いずれも国指定重要文化財)。※楞厳寺と岩谷寺の両像の姿はこちらのエントリを参照

頬のふくらみや唇など、量感たっぷりの雰囲気がすごい。その唇と頬の造形から、正面から見るとちょっと子どもっぽいあどけなさも感じてしまうのだが、その造形の圧倒的な迫力に引き込まれる。目の表情は力強さというよりは、達観した雰囲気が出ていると感じる。

弥勒如来 下から上半身

螺髪は彫り出したのかな、というようにも見えるが、1つ1つが大きめでグルグルがしっっかりと彫られている。肉髻の盛り上がりが低く、境目がわかりづらい。

手先は後補である可能性はあるだろうが、やや大きめで肉厚であり、何かをつかむでもなければ、何かに触れているようでもあり、同じ施無畏・与願印であっても、あまり見ない不思議な暖かさがある。とりわけ右手の造形が美しい。

弥勒如来 右腕

衣紋が非常に美しい。快慶の安阿弥様の阿弥陀如来立像の場合、胸のあたりから流れる水のように降りてきた衣紋は、太ももに至るにあたっては、両太ももに沿うように造形されることが多いが、この仏像の場合は、その降りてきた衣紋がそのまま太ももに関係なく下まで流れ落ちているかのようだ。体に沿う衣ではなく、もう1枚外に布をかけているような感じにも見える。流れ落ちる衣紋も一定ではなく複雑なリズムで刻まれており、鎌倉時代後半に流行を見せる宋風の衣紋の影響を受けていると見られているのだそうだ。

弥勒如来 両腕

衣でもうひとつ気になるのは、通肩(つうけん)の上に偏担右肩(へんだんうけん)にしているかのように見えるが、左肩にもさらに衣がかかっていることだ。通肩の上に偏担右肩にかけるというのは古式の服制らしいのだが、この像は、肩にもう一つのショールのようなものをかけているということなのだろうか?全体として衣紋の襞の部分にだけ金箔が遺っていることも相まって、なかなかゴージャスな雰囲気のある衣をまとっているな、と感じる。胸のあたりの衣紋の折り返しなどを見ても、衣紋はかなり複雑で宋風らしい。

弥勒如来 胸から上 左側から

現在、この地では弥勒菩薩として祀られているが、仏像好きな方なら一目で、これは如来では?と思われたことだろう。江戸時代の資料に「運慶作の弥勒菩薩」とあることからそう呼ばれているのだというが、昭和2年の解体修理の際に像内銘から、笠間時朝によって奉納された弥勒如来であると判明したのだそうだ。文化財指定名としては、「木造 弥勒仏立像」となっている。ちなみに、台座、光背ともに造立当初のものというのも貴重だ。

弥勒如来 右側から側面

墨書銘でも年代からして運慶作ではないことが判明しているそうだが、それに近い工房の作であったのかもしれない。非常に力強さを感じる造形である。漆の剥がれ具合がギリギリではあるものの、それがまた独特な雰囲気をまとっているようにも見える。どっしりとした迫力と造形の美しさが見事に融合した仏像であると感じた。

境内のあじさい

【関連サイト】

ストイックに仏像「笠間六体仏・花祭りご開帳2」
せきどよしおの仏像探訪「笠間の3か寺」
ひたすら仏像拝観 茨城県・弥勒教会「力強く生命力あふれる伝運慶の弥勒仏の巻き」
仏像は眼鏡をかけない「笠間六体仏①弥勒教会 弥勒仏立像」

 

【弥勒教会弥勒堂(みろくきょうかい・みろくどう)】

〒 309-1607 茨城県笠間市石寺482
TEL:029-301-5449(茨城県教育庁 文化課)
開帳:毎年4月8日(この日は笠間六体仏の現存3体も同時に開扉される)
拝観料:志納
駐車場:小型車であればお堂のすぐ下に止められると思われるが、ご開帳日は不明

 

 - 鎌倉時代, 寄木造, 如来, 菩薩, 慶派, 地方仏, 仏像, 茨城県, 運慶

Comment

  1. ソゾタケさま、素晴らしい写真とコメントでとても参考になりました。ありがとうございます。笠間時朝と等身の弥勒立像について、菩薩が仏の姿で表現されていることが写真を見てよく分かりました。晩年の親鸞と関東の門弟の間の手紙で、弥勒が重要な話題となり、「弥勒はいまだ、仏になりたまわねども、このたびかならずかならず仏になりたまうべきによりて、みろくをばすでに弥勒仏と申し候うなり。」「弥勒とおなじく、このたび無上覚にいたるべきゆえに、弥勒におなじととき給えり。さて、『大経』には、「次如弥勒」とは申すなり。弥勒はすでに仏にちかくましませば、弥勒仏と諸宗のならいは申すなり。しかれば、弥勒におなじくらいなれば、正定聚の人は如来とひとしとも申すなり。」と親鸞が書き送っているのですが、その歴史的背景として同時代の笠間の弥勒像の存在は重要です。現存していることを知りませんでした。現在も拝観できるのなら、いつか現地に行って自分の目で見てみたいと思います。
     ネット上にいくつかある写真データの中で、ソゾタケさん撮影のものが一番よく撮れていると思います。もし可能ならば、いま書いている論文の図版資料として使わせていただけないでしょうか?『親鸞教学』という非営利の学会誌に掲載予定の論文です。もちろん撮影者のクレジットは入れさせていただきます。ご返事をいただけると幸甚です。

  2. butszo より:

    >井上先生

    ご覧頂き、詳細なコメントを本当にありがとうございます。
    改めてメールにてお返事させていただきます。

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