祗是未在

ソゾタケの仏像日記

中染阿弥陀堂(茨城県常陸太田市)— 素朴ながら堂々たる等身大の鉄仏阿弥陀如来

      2015/09/10

阿弥陀堂外観

水戸藩であった現在の茨城県では、明治時代だけではなく、元禄期にも徳川光圀による神仏分離政策からの凄まじい廃仏毀釈が起きていたことは前回のエントリ菊蓮寺のエントリで取り上げた通りであるが、そうした災難の中、素晴らしい仏像が地域の人たちの力で守られてきている。

仏像リンクツアーで訪れた中からもう1か寺、ちょっと珍しい鋳造の仏像をご紹介する。鋳造ということは金属製である。金属の仏像と言えば銅造が有名だが、今回は鉄仏である。

鉄仏というのはあまり拝見したことがない。有名なのが大山寺(神奈川県)鉄造不動明王像(国指定重要文化財)だろうか。全国に50体ほどあるという鉄仏のうち、関東地方には実に30体があり、愛知県に11体があるという。考えてみると私の住んでいる東京の多摩地区でも、府中市の善明寺に2体の鉄仏があるではないか。鉄仏はほとんどが鎌倉時代以降の作であるという。

金属製の仏像というと、先ほども書いた通り、どちらかというと銅造を思い浮かべる。法隆寺釈迦如来像などの飛鳥仏や、薬師寺薬師三尊像のような白鳳仏、そして東大寺大仏など、いずれも銅製である。

銅は鉄の1538℃に比べて1085℃と融点が低いことで、造形するには扱いやすいようだ。そう考えると、鉄はそれだけ難しい技術が必要であるということになる。バリをとるのも相当に大変であったり、放置すると、鉄は水分があれば容易に空気中の酸素と反応して赤さびを形成してしまうため腐食しやすいなど、長く保つことを考えると、あまりいい用材とは言えないかもしれない。

それなのになぜ鎌倉時代以降、この鉄仏が関東地方や尾張で好まれたのだろうか?それはいよいよ台頭して政治の中枢を担うようになってきた東国武士との関係があるという。つまり、刀剣と同じく、最も硬い金属である鉄への強い信仰心との関係があったとも考えられるようだ。武士らしいとも言えるだろうか。鉄仏は細かい造形は難しく、表面が荒くなるためにメッキがかけにくいなど、美しい造形には向かないというが、そうした荒々しい雰囲気がかえって好まれたようだ。

そうした関東には多い鉄仏の中で、つい最近(2014年)、国の重要文化財に指定されたのが、今回訪れた中染阿弥陀堂の仏像なのである。

阿弥陀堂前のあじさい

阿弥陀堂前のあじさい

 

常陸太田市といえば、徳川光圀の隠居庵である西山荘があることで知られるが、そこから北に山間部へと入ったところに中染阿弥陀堂はある。のどかな山村にバスは止まり、そこからまさに山へと分け入るように少しだけ登ると、小さな収蔵庫が見えた。すでに世話役の皆さんが準備をして下さっている。

 

※撮影には特別な許可をいただいています 

鋳造阿弥陀如来立像(鎌倉時代・1264年)鉄製鋳造 像高164.2cm 国指定重要文化財阿弥陀如来 全身 正面

鉄仏としては最大級のものであるという。ほぼ等身大である。

重要文化財指定に際しての東京国立博物館での特別展示でお会いしているので2回目である。東博でお会いしたときは、正直なところ、パッと見た感じは鉄の仏像には見えなかった。

阿弥陀如来 左側から 斜め全身

しかし今回すぐ近くで拝見すると、鉄っぽい素材感は伝わってくる。

サビが見て取れることや、首のあたりやあちこちに金属らしいバリがあることなど、他の仏像とは造形が明らかに違うな、と感じる。

阿弥陀如来 与願印

錆びているところや指の折れなども痛々しい。

阿弥陀如来 施無畏印

ただ、顔を見ると、表情はやわらかく、造形もきれいだ。鉄仏は仕上がりが荒れた感じになってしまうというが、顔の肌に関してはとてもきれいだな、と思う。

阿弥陀如来 左側から 横顔

荒々しいところはやはりあるものの、唇のあたりの造形や、鼻の低さ、目が左右で違っていたりと、素朴な雰囲気がとてもいい。螺髪の1つ1つが大きくて10円まんじゅうをたくさんくっつけたような感じにも見えるところもまた何だかほっこりする。

阿弥陀如来 左側斜め前から上半身

背中に回ると、大きな把手のようなものが出ていて、そこに壁から太い金属製のフックがひっかけられて固定されている。鉄であるからこそ、中が空洞であっても相当な重さであろうし、立像なので、きっとこれで支えていないと倒れてしまって大変なんだろうな、と思っていたら、なんとフックがなくてもしっかりと自立できるのだというから驚いた。この把手は光背をつけていたもののようだが、現在はもちろん安全のために固定されているのだろう。茨城は地震が多いので、これならば安心だろう。

阿弥陀如来 背面 フック

そのフックの間、ライトに照らされた背面には銘文がハッキリと読み取れる。

背面 銘文

奉治鋳法然寺阿弥陀如来立像
大檀那桐原左衛門入道祭立
大工権守入道西念
勧進憎立仏房生年五十六
仏師日向房良覚
弘長四年甲子四月二十六日

とあり、どうやらもともとは法然寺というお寺にあったということ、桐原左衛門入道が大檀那で造立されたこと、権守入道西念が作ったこと、などなどが書かれている。鉄仏というのはこうした銘文が遺されることが非常に多いらしい。

じっくり拝見していると、あろうことか、世話役の方から、特別に触れてもいいというお話をいただいた。一同大いに驚いたが、そっと触れてみると、ひんやりとしている。あぁやっぱり鉄なんだな、ということを実感できた。

阿弥陀如来 右側から 斜め上半身

造形の難しい鉄で造られ、荒々しい部分も見られる仏像ではあるが、エッジが立っていない柔らかさのある素朴な表情に接していると、とても穏やかな気持ちになる。

“手が冷たい人は心は温かい”などと俗に言うが、触れてみたらひんやりとしたこの阿弥陀さまも、やはり阿弥陀さまらしい暖かさを十分に私たちに与えてくださったな、と感じた。

 

【参考サイト】

【関連サイト】

 

【中染阿弥陀堂(なかぞめあみだどう)】

〒313-0212 茨城県常陸太田市中染町23
TEL: 0294-72-3111(常陸太田市教育委員会)
拝観:通常10月の第3土・日に行われる「常陸太田市指定文化財 集中曝涼」にて開帳
拝観料:志納
駐車場:駐車場と言えるものは特になかった

 - 鎌倉時代, 銅造、金属製, 如来, 地方仏, 仏像, 茨城県

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顔は面長で、頬はふっくらとしている。かなり暗いので肉眼ではなかなかよくわからなかったが、写真に撮って見てみると半眼であることがわかる。頭上の宝髻はかなり簡略化されており、冠を載せるためなのか後補なのかは不明である。唇はやや厚めでキュートな雰囲気が出ている。このあたりは観心寺像に女性を感じるのと同じなのかもしれない。