祗是未在

ソゾタケの仏像日記

「祈りの道へ -四国遍路と土佐のほとけ-」展(東京都・多摩美術大学美術館)①

      2015/02/05

図録表紙

 

※すべての画像は監修者よりの掲載の許可を得ており、複製、転載を禁じます。

特別展公式サイト(監修者、学芸員のブログもご覧いただけます)
http://www.tamabi.ac.jp/museum/inorinomichihe/

 

四国というのは自分としてはずいぶんご無沙汰しているイメージながらも、若い頃はちょくちょく訪れていた場所ではある。高校生の頃には青春18きっぷを使って四国全土を友人と2人で周遊した。その頃はまだ走っていた高松発高知行きの夜行鈍行列車(ディーゼルカーでも電車でもない、列車である)や、徳島県の牟岐駅の駅舎で寝させていただいたりして5日間ほど巡ったのが懐かしい。

その時の経験から、四国は本当にいいところだ、というイメージが強いのだが、とりわけ四国山地を越えた高知県の良さにより惹きつけられた記憶がある。

自然の深さが素晴らしいという印象で、高知平野ののびやかな平地と、四国山地や四万十川沿いあたりの山地の深さや川の流麗さ、海に行けばとてつもなく入り組んだ海岸線と美しい砂浜。高校生の頃は食に舌鼓を打つような経済力もなかったわけであるが、とにかく高知を一気に好きになってしまったのは間違いない。またいつか行こうと決めていたのが高知である。

今回は高知に仏像拝観に行ったというお話ではない。そもそも、四国の仏像というものは私はほとんど知らない。生まれてこの方の仏像好きではあるが、地方仏に興味を持ち始めたのはごく最近。四国に仏像を拝観に行く、というイメージは今までほとんどなかったからである。高校生の頃に四国に行ったときも仏像は全く拝観していない。今年は竹林寺や太山寺など、四国の寺院では非常に貴重なご開帳も行われており、ぜひ行きたいとも思ったのだが、結局のところそのチャンスを生かすことはできなかった。

そんな高知県から、何とあちらから素晴らしい仏像たちが東京へと来て下さるというから、その情報を聞いたときは本当に驚いた。それも、都心の大きな博物館や美術館ではなく、私の住む多摩地区にある多摩美術大学美術館で、というから、ますます驚きなのであった。

この特別展は、多摩美術大学の青木淳先生が監修し、先生の主導で企画されたものである。もともと、青木先生は高知に長く滞在していた関係で、多くの素晴らしい仏像や仏画などを見いだし、文化財指定すなわち文化財の保存へとつなげていった方である。高知のお寺との信頼関係は非常に深く、先生の力があって初めてこの特別展が企画できたという。

展示は1階と2階に分かれている。1階は主にお遍路や土佐の文化を感じることができる空間になっている。

 

まずは考古資料がメインに展示されている入ってすぐの1階右側の部屋から見ていこう。

 

天崎遺跡 三号銅矛(左) 81.4cm 弥生時代/二号銅矛(右)78.9cm 弥生時代

銅矛

緑青がないのは磨いているせいなのかもしれないが、間近で拝見すると、特に欠損もなく、非常に見事な銅矛である。銅矛は柄の先につけて使うもので、この大きさだとおそらく祭祀的な意味合いのものだろうが、近くで見るとその造形、彫りの鋭さがカッコイイ。

一宮神社(四万十市立郷土資料館寄託) 七星剣(四万十市文化財)81.7cm  鉄製 真鍮象眼

七星剣 部分

七星剣というと、三国志好きなら、曹操が董卓を暗殺するために王允からもらったがバレてしまった、というあのエピソードを思い出してしまうのだが(土佐には何の関係もないですね)、七星剣とは、剣の表面に七星文が刻まれた破邪の力を宿す剣のことである。この一宮神社の七星剣は、表面に真鍮の象嵌によって七星文が表現されている。朝鮮半島あたりから伝わったもののようだが、日本でも現在数振りしか残っていない七星剣がこうして土佐からも出ているのである。アクリルケースに入っているが、すぐ間近で文様をしっかりと確認することができる。

実際にはどれが北斗七星であるとかは今ひとつよくわからなかったのだが、錆びた長い剣に、きらりと輝く紋様がいくつも象嵌されているというのはかなり不思議かつ妖しい感じがして良い。

 

その他の考古資料としては、瓦の独特な紋様には驚いた。

比江廃寺 軒丸瓦 奈良時代

瓦

私も過去に瓦の本や論文を何冊か読んだが、瓦の研究はかなり難しい。そうした一般的な古代の瓦の図像からしても、今回出典されている瓦の紋様はハッキリ言って異質だ。近代にでもなればいろいろな表現も出てくるだろうが、奈良時代の単弁八葉蓮華文でこのような表現というのは、私は見た記憶がなかった。写真の上のものなどは、盛り上がってるところとへこんでいる所が逆なのかな、という感じだったりもするし、下のものは扇子を広げてつないだような、平安時代の絵巻の紋様にでも出てきそうな感じに見える。土佐独特の表現なのか、同様の時代にここまで表現が違うというのはなかなか興味深い。

そしてこの部屋の考古遺物でもうひとつ注目しておきたいのがこちら。

野田廃寺 塼仏(奈良時代後半)土製 5.4cm

塼仏

塼仏(せんぶつ)とは、仏像などの型に粘土を押しこんで大量に作って素焼きし、それに金箔を貼ったりしてお堂の壁に隙間なく張り巡らせるという荘厳のためのものなのだが、明日香の川原寺裏山遺跡の出土例からもわかるように、普通はかなりの量が出る。もともとたくさんある上に、最初から素焼きなので硬い。同じく粘土で作る塑像は素焼きではないので(あちらは乾かしただけ)、お寺が焼けたりして強制的にテラコッタにならないとなかなか遺らないのだが、塼仏は最初から素焼きなので焼失ではなくても遺りやすい。

しかし高知では塼仏はほとんど出ていないのだそうだ。この1点のみ。それもかなり小さい。焼け焦げているのが見えるので焼失寺院のものなのかもしれないが、ここが顔かな、これが腕かな、光背も描かれてるな、というのは見て取れるが、それ以上はなかなかつかみづらい。しかしこの断片だけでもいろいろなことがわかるようで、仏像の上半身が長く、これは朝鮮半島系ということで、大陸から山陰や瀬戸内を越えるのではなく、直接太平洋から土佐へと伝わってきた技術の存在を知らしめるという。

 

考古以外でも、奥の展示ケースに並ぶ5幅の掛け軸も見事だ。これも青木先生が偶然発見したというものだそうで、この発見により、すべてが現在は高知県指定文化財になっている。とりわけ目を引くのが、両頭愛染曼荼羅。

金剛頂寺(室戸市)両頭愛染曼荼羅図(高知県指定文化財・鎌倉時代) 縦114.0cm 幅58.0cm

両頭愛染曼荼羅図

迫力のある愛染明王の異様な姿にも惹きつけられるが、光背の炎の描き方がかなりカッコイイ。展示ケースの外からだとわかりづらいかもしれないが、この曼荼羅だけではなく、他の掛け軸の仏画も、すべて、間近で拝見すると金泥などでかなり細かい詳細な紋様がびっしりと描かれている。県指定文化財になるのも納得の仏画であることがわかる。

金剛頂寺(室戸市)文殊菩薩像(南北朝時代) 縦96.2cm 幅55.7cm 高知県指定文化財

文殊菩薩像

その隣の文殊菩薩は写真ではわかりづらいかもしれないが、実際に見るとかなりの目力で、やや厳しくも見える表情ながら、もち肌の表現にもグッとくる。

 

1階左側の部屋へと移ると、まず目に飛び込んでくるのが、江戸時代の駕籠かな?と思うような、中央に置かれた大きな木でできた箱車である。

箱車

これは足や体の悪い人がお遍路を巡るために作られたもので、実際には車輪がついて、前方にリヤカーのような把手、中にはハンドルのようなものが取り付けられていたのではないか、ということであった。かつて目撃した方たちの話では、こうした箱車を50人もの人たちが押したり引いたりしていたというから驚きだ。お遍路には巡礼する人たちをもてなす「お接待」という風習がある。お接待をすることそのものが功徳であったわけで、この箱車に乗った人を助けることも功徳だった、ということなのである。それを、移動していく先の地域の人たちが交代で運んだという。実物がこうして公開されるのは初とのことであるが、かなりのインパクトだ。お遍路文化を象徴するとも言える展示物である。

 

その奥に、遠目に見ても見事な仏像が立っている。

竹林寺 阿弥陀如来立像(鎌倉時代)像高83.0cm 

阿弥陀如来立像

ひと目で快慶系の仏像であると感じさせる見事な仏像だ。切れ長の目、立ち姿、非常に美しい。裾の端、足が出てくる辺りの襞などの衣紋がやや表現が凝っている感じで、わずかに宋風な雰囲気も感じさせる。腿の辺りの直線的な衣紋が違和感があって不思議な表現だが、先生に聞いたところでは、これは表現が省略されてややいい加減になっているのではないかとのことだった。工房の終盤期の作品なのかもしれない。わずかに螺髪が高く、生え際がほんの少しうねっているのも時代的に終盤を示しているのかもしれないと感じた。

この仏像はその見た目の美しさだけではなく、別の一件でも注目されている。徳川家康の姪である阿姫(くまひめ)が家康の養女となりお輿入れしているのだが(家康はこういうのが多いね)、阿姫が家康の菩提を弔うために竹林寺に阿弥陀如来を寄進し、裏書きをするように命じているという文書が土佐山内家に伝わる。その内容を記した銘文が像の背面に記されていることを、X線写真および赤外線写真による科学的調査において確認し、文書の事実を証明することに成功したという。

非常に美しく、いろいろな角度から眺めてしまう。 流麗な仏像である。

 

このように1階の展示室だけでもかなりの満足度であるのだが、いよいよ仏像ワールドである2階へと上がることにする

 

へつづく)

 

【四国霊場開創1200年記念 祈りの道へ—四国遍路と土佐のほとけ—】

会期:2014年11月22日(土)〜2015年1月18日(日)
会場:多摩美術大学美術館(多摩センター)

入場料:300円

主催:多摩美術大学美術館/共催:高知県立埋蔵文化財センター/後援:四国八十八ヶ所霊場会、四国八十八ヶ所霊場会土佐部会、高知県仏教界、高知県仏教青年会、高知県、高知県教育委員会、高知新聞社、RKC高知放送/協力:高知県立歴史民俗資料館、おへんろ交流サロン、合同会社ベータ

監修:青木淳(多摩美術大学准教授)

http://www.tamabi.ac.jp/museum/inorinomichihe/

 

【多摩美術大学美術館(たまびじゅつだいがくびじゅつかん)】

〒206-0033 東京都多摩市落合1-33-1
TEL:042-357-1251
アクセス:京王相模原線・小田急多摩線・多摩モノレール 多摩センター駅より徒歩7分
駐車場:なし(多摩センター周辺の有料駐車場を利用 東1駐車場が最も近い 利用者割引きなし)

 - 平安時代, 鎌倉時代, 一木造, 寄木造, 菩薩, 慶派, 博物館,美術館, 仏像, 高知県, 快慶, 多摩地区

Comment

  1. もみじ より:

    貴重な情報ありがとうございます。名古屋からだと遠いですが、行ってみたいですね。

  2. 大ドラ より:

    竹林寺の阿弥陀如来立像は、慶派らしい眼力を感じさせ、本当に美しい仏像だと、僕も思います。
    僕は仏像への鑑識眼がまだ養われていないので、どこが手抜きをした部分なのかよく分からないですね。
    文殊菩薩の仏画は写真で見てもかなりの気迫を感じさせるので、実物はどんなものかと思ってしまいます。

    京都の円通寺のことはソゾタケさんのお話で初めて知りました。これまでは、宝ヶ池の近くにそのようなお寺があることすら知らなかったです。
    情報をくださって、どうもありがとうございます。
    比叡山の借景が見られるお寺となれば、機会があれば行きたいと思えます。

    僕としては、贅沢な考えですが、できれば庭園が楽しめるだけでなく同時にかなり質の高い古仏のお姿を拝めるお寺に行きたいとは、思っています。
    滋賀の米原にある青岸寺は、庭園が楽しめるだけでなく、室町期の聖観音坐像と鎌倉期の小型の十一面観音像のお姿も楽しめるお寺だと思いました。
    そのようなお寺では福井の小浜にある萬徳寺も訪ねたいのですが、先月半ばに日帰りで若狭へ行ったとはいえ、小浜の明通寺や妙楽寺などのほかには、高浜の中山寺と馬居寺の馬頭観音坐像のご開帳に行くなどで、萬徳寺へは行かずじまいで、次の機会に訪ねたいですね。
    但し、中山寺と馬居寺の秘仏本尊の馬頭観音様は、どちらのお方も大変見事で、迫力も御利益も感じさせる仏様だと思いました。

    この後編の記事を楽しみにお待ちしております。

  3. ソゾタケ より:

    >もみじさま

    ご訪問ありがとうございます。私も愛知の出身です!
    素晴らしい特別展ですので、遠いですがぜひいらっしゃってください。

  4. ソゾタケ より:

    >大ドラさま

    いつもご覧頂きありがとうございます!

    米原の青岸寺は存じ上げませんでした。地元(愛知)からも遠くないのでいずれ訪れてみたいと思います。情報ありがとうございます。
    小浜は来年の秋にでも巡ろうと思っているので、萬徳寺も訪れたいですね。馬居寺は今年行けなかったのが本当に悔やまれます。
    中山寺は3年前に幸いにしてお会いすることができました。今後はちょくちょく開くのでは、という噂もあるようですがさて?

    続編、ただいま書いております。お待たせして申し訳ありません。後編は仏像編になりますのでお楽しみに!

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