「観音の里の祈りと暮らし展Ⅱ—びわ湖・長浜のホトケたち—」(東京都・東京藝術大学美術館)(前編)

関東地方, 平安時代, 弘仁・貞観時代, 藤原時代, 鎌倉時代, 江戸時代, 一木造, 寄木造, 定朝様, 如来, 菩薩, 天部, 博物館,美術館, 仏像, 東京都, 23区

特別展看板

滋賀県は仏像の宝庫であるが、とりわけ「湖北」と呼ばれる琵琶湖の北東地域一帯は「観音の里」という別名があるほど、観音菩薩像をはじめ、数多くの仏像が存在する宝庫である。私はかねてより実家に帰省する度にこの地を訪れていたが、のどかな風景に癒やされつつ、その仏像たちの素晴らしさ、そして何よりも地域の方々が、はるか昔から何代にも亘ってこの地で仏像を守り続けてきたというその気持ちに触れて感動する。

最近は仏像が好きな若い人がたくさん増え、SNS等により観音の里もかなりメジャーな存在になってきたが、その知名度をさらに押し上げたのが、一昨年、東京藝術大学美術館で開かれた「観音の里の祈りとくらし展」であっただろう。そこには観音の里からはるばる東京までいらっしゃった18体の仏像が並んだ。観音の里の仏像は、先述のとおり1体1体が大切に守られてきた存在である。仏像たちからしても、ずっとその地域にあって地域の方々を見守り続けてきたわけだ。そうした存在の仏像が、その地域を離れて東京に出張するというのはいかに大変なことであるか、その時も大いに感じたものであった。

※前回についてはこちら→「観音の里の祈りとくらし展

その好評を得てなのか、今年春、上野・不忍池ほとりに「びわ湖長浜KANNONハウス」という、地域情報発信の施設がオープンした。ここでは2〜3か月に1体、観音の里からやってきた観音像が展示されることになっている。他に聞いたことがない斬新な発想であるが、それほどに湖北の観音たちが愛されているということでもあるのだろう。不忍池に面しており、とても落ち着く空間になっているので、上野へお越しの際はぜひこちらにも足を運んでいただきたいと思う。

常設の観音の里のの施設ができた上野で、さらにこの夏、一昨年の特別展の第二弾が開かれることになったのである。同じ地域の仏像を出展する特別展のパート2というものは滅多にないと思う。

展覧会入口の表示
展覧会入口の表示

会場は前回と同じく東京藝術大学美術館だが、前回の18体から、倍以上の40体以上もの仏像がお出ましになるという大規模なものになった。

今回はブロガー特別内覧会に参加させていただいてきた。

※掲載の写真は内覧会において特別に撮影が許可されたものです。特別展会場での撮影はできません。

なお、今回も前回同様に図録は書籍としても十分に通用するものであり、読み応えもあり、詳細を知ることができる。内容も非常に充実しており、購入をオススメする1冊である。

さて会場へと入ろう。

開場内の様子

 

前回は地下であったが、今回は3階である。会場に入ると、ひと目で、ものすごい数だということがわかる。

開場内の様子

展示の構成としては、手前の大きな部屋と、奥の部屋の2室構成となっている。今回もほとんどの仏像が露座で展示されており、手が触れられそうなほどにまで近くで拝観できる。人が増えると危ないんじゃないかという心配もしてしまうほどで、見る人は背中に回した荷物などには注意を要するだろう。それほど間近で拝観できる。

すべてを取り上げることは不可能だが、内覧会の様子から、展示されている何体かの仏像を2回に分けてご紹介する。

今回は2つある部屋の内、奥の部屋について書こうと思う。

まずは藝大美術館館長が「今回の特別展の主尊」と話していた、奥の部屋の中央に安置されたこの像である。

【黒田観音寺】 伝・千手観音立像(平安時代前期・国指定重文)像高200.0cm 一木造

黒田観音寺 千手観音菩薩像右側面

あまりの圧倒的なその存在感と雰囲気に言葉を失った。この方があの黒田観音か。。。

現地では厨子の中に入り、下半身は拝見できないという。こうして厨子を出て外で全体の姿を拝観できるのはかなりかなりレアなことであるようだ。

まず目がいくのがその厳しい表情である。目がかなりつり上がっており、その表情だけでも独特な雰囲気を十分に放っている。

黒田観音寺 伝千手観音立像 上半身

横顔を拝するとますますその様相が強い。唇をわずかにとがらせているようにも見えるのがまたその厳しい雰囲気を感じさせるのだろうか。

黒田観音寺 伝千手観音立像 横顔

眉はよく見ると彫られている造形よりもゆるやかなカーブで墨で描かれており、もしこれが彫られているままに描かれていたらもっと厳しい雰囲気になっていたことだろうか。

黒田観音寺 伝千手観音立像 左側面

頭上はよく見ると宝髻がかなり高く結われているが、それを隠すように被されている冠の造形がまた非常にゴージャスで美しい。

黒田観音寺 伝千手観音立像 頭部

千手観音と伝承されているが、腕は18本であり、欠落しているわけでもないようだ。十八臂の准胝観音という説もあるのだそうだ。その18本の腕の力強さといったらどうだろう。圧倒的な存在感を持ちつつも、どこかすらりとしていて、かつなまめかしくて美しいという感じがする。

黒田観音寺 伝千手観音立像 側面

ふと気づいたのが、18本すべての腕に腕釧をしている、ということだ。正面の最も太い二の腕には臂釧もしている。近くで見ると別材(金属?)を使っているようで、時代はわからないが、これもまた、この観音像の雰囲気を醸し出すのに一役買っているのかもしれない。

黒田観音寺 伝千手観音立像 手

下半身前面の衣紋は翻波式衣文ではあるだろうが、大波がかなり深く掘られており、むしろ木彫とは思えない豊かな表現である。まるでドレープのようだ。最上部は衣が少しゆるくもたれたような感じにも見えるし、両脚の間の衣紋は、渦紋にしてもその下の左右に互い違いに降りていく造形にしても、衣紋のひだひだがしっかりと表現されていてかなりのリアリティを感じる。

黒田観音寺 脚部の写真

正面から拝観するとその厳かな雰囲気に圧倒されるが、側面や背面へと回ると、また全く違う感想を抱くことになるだろう。

黒田観音寺 伝千手観音立像 脚部側面

肩にかけられた衣(この部分は別材)のカーブから裾までのカーブへと、ゆるやかでしなやかさを感じる衣紋の流麗さが見事に調和していて、この上なく美しい。

肩から出ている無垢な腕の美しさにも目を奪われる。

黒田観音寺 伝千手観音立像 背面

よく見ると、お尻のあたりの衣紋は右側が少し絞ったような造形で、左右対称ではなく、真っ直ぐ立っているように見えるのだが、真後ろから見ると、何だかちょっとだけ身体がカーブして立っているようにも見える。スタイルも素晴らしく、しなやかで美しい。

 

厳しさをもちながらも、怖いという雰囲気では全くなく、気高さを感じる像である。予想以上の素晴らしさで、像の前で全く動けなくなってしまった。

黒田観音寺 伝千手観音像 背面

奥の部屋には、浅井郡菅浦地区の仏像が2体展示されているが、今回の展示の特徴のひとつとして、湖北の惣村というものの歴史についての展示がされているということのようだ。菅浦地区は中世惣村文書を伝承し保管してきたことで知られるとのことで、その文書が展示されている。

菅原地区資料展示状況の写真

長浜城歴史館長の太田氏も、そうした村や地区ごとに、そのくらい昔からずっと仏像を中心にして村が構成されてきた歴史というのを感じて欲しいと話していた。

惣村資料

その菅浦地区の阿弥陀寺からは、2体の仏像が出展している。

【阿弥陀寺】聖観音菩薩坐像(平安時代・長浜市指定文化財) 像高95.7cm

聖観音菩薩坐像 正面

【阿弥陀寺】阿弥陀如来坐像(平安時代・長浜市指定文化財)像高140.0cm

阿弥陀如来坐像 上半身

この2体はもともと同じ寺である長福寺に伝わったものだそうだ。長福寺は通称で二尊堂と呼ばれたそうで、この2体の仏像のことを指していたのだろう。現在は長福寺からは変わったものの、やはり同じく阿弥陀寺に安置されている。千年の間にはいろいろなことがあったであろうが、当初とは違う寺に移されながらも、当初のように2体の仏像が同じ空間にいられるというのは何だか運命的だ。

聖観音坐像 横顔
聖観音坐像

 

聖観音坐像は3年前の最初の特別展の時もいらっしゃっていて、やはりその美しさに目を奪われた記憶がある。彫りが非常に美しい。何というか、刀のエッジをしっかり使ったような、そんなイメージを抱く。

聖観音坐像 腕
聖観音坐像

 

阿弥陀如来坐像はつるりとしているが、少し色白なこともあるのか、何というか、絹のような柔らかさを感じる。手先は後補かもしれないが、指の美しさが印象的だった。

阿弥陀如来坐像 指
阿弥陀如来坐像

 

菅浦地区の仏像の反対側にいらっしゃるこちらの三体の仏像がなんだかかわいらしかった。

【浄光寺】十一面観音立像・薬師如来立像・阿弥陀如来立像(室町時代)像高97.5cm(十一面観音)、63.5cm(薬師如来)、45.5cm(阿弥陀如来)

浄光寺 三尊像

大中小みたいな感じで、また表情も何だかいい雰囲気。

浄光寺 三尊像 側面

中央の十一面観音像は、カラフル、色白、室町時代、ということで、奈良・額安寺の本尊である十一面観音を思い出した。

※関連エントリ→ 額安寺(奈良県大和郡山市)—深い歴史を静かに物語る彩色美しい日本最古の乾漆虚空蔵菩薩

浄光寺 十一面観音

こちらの薬師如来立像は、ちょっとだけ温水洋一さんを思い出した。良いお顔をされている。

浄光寺 薬師如来立像

また、先述のびわ湖長浜KANNON HOUSEの記念すべき初代展示を担った宝厳寺・聖観音立像もいらっしゃっている。KANNON HOUSEではガラスケースの中だったが、今回は露座である。

聖観音菩薩立像(宝厳寺)

善隆寺からの仏頭(平安時代・国指定重要文化財)は表情が非常に優しく、とりわけ目の辺りの彫りがとても美しい。

善隆寺 仏頭

 

宝厳寺弁財天坐像(安土桃山時代・長浜市指定文化財)は、母のような優しいまなざし。えくぼ?がとてもチャーミング。

宝厳寺 弁才天坐像

 

安念寺(いも観音)からは、前回の2体とは別の、旧本尊と考えられている如来形立像(平安時代)がいらっしゃっていた。強いオーラを感じる。

いも観音 全体

いも観音 頭部

 

 

それでは手前の部屋へと移ることにしよう。

後編へ続く)

 

会期は8月7日(日)まで。残り会期も短くなってきました。まだご覧になっていない方は、おそらく二度と無いこの機会、ぜひ上野へと足を運ばれることを強くお勧めします!

【観音の里の祈りとくらし展Ⅱ—びわ湖・長浜のホトケたち—】

会期:2016年7月5日〜2016年8月7日(日)
開場:東京藝術大学美術館(東京都・上野)
料金:1,200円(大人)
時間:10:00〜17:00(金曜日は20:00まで)入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日

展覧会ウェブサイト:http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/nagahama2/nagahama2_ja.htm
びわ湖・長浜 観音の里ウェブサイト:http://kitabiwako.jp/kannon/