春は花の季節。巷にも花は咲き乱れ、気温も暖かくなり日差しも明るく、新たな生命の息吹を感じて何だか幸せになる季節である。
お寺というのはその性質故か、四季を通じていろいろな植物の風景を見せてくれるようにできているようで、春は桜、夏は青々とした緑、秋は美しい紅葉、冬は冬枯れの良さを感じられる。大自然に比べればはるかに狭い敷地内に、四季がたっぷりと詰まっているお寺がとても多いと感じる。
とりわけ、奈良や京都のお寺はそうした風景を四季を通じて楽しめるところが多い。奈良の山間部にある室生寺も同じである。
室生寺は私が最も好きな寺である。ここには弘仁時代に造られたあまりにも素晴らしい仏像たちが並び立ち、さらに山岳寺院ということで、小さな集落とともに、室生川のせせらぎの音と深い緑に包まれる。春の桜から冬の景色まで、いつ訪れても、仏像や建築とともに、その風景や空気に包まれて満足して帰ることができる。
そんな室生寺の四季の中で、最も著名なのはいつか、というと、それはやはり4月中旬から5月頭までの季節であろう。境内に数多く植えられたシャクナゲの花が一斉に花を咲かせるのである。このブログの前回と前々回のエントリはちょっと重い内容だったこともあるので、今回はシャクナゲの美しく咲き乱れる室生寺の様子を写真でお楽しみいただけたらと思う。
楼門をくぐると、いつもなら左手のバン字の池の前にいる虚無僧が、今日はその反対側のシャクナゲの花の前で尺八を吹いていた。この時はNHK奈良によるテレビ撮影が行われており、その演出の一貫として、室生寺の僧侶が虚無僧を紹介する、という展開になっているようであった。そのためにシャクナゲの前にいたのかもしれない。
虚無僧というと禅宗の一派である普化宗(ふけしゅう・明治政府によって消滅させられたため今は存在しない)の僧のことであり、よく知られる編笠かぶりで尺八を吹きつつ喜捨を募る半僧半俗の存在である。春と秋に室生寺にやってくると、このバン字池周辺で虚無僧の尺八を聞くことができるが、風情はあるものの、なぜ真言宗の室生寺で虚無僧が尺八を吹いているのかはよく知らない。
金堂への鎧坂もシャクナゲで彩られている。
金堂とシャクナゲ。
金堂すぐ下にはおなじみ、軍荼利明王の石仏がある。自然石を彫ったようななかなか趣のある石仏である。
金堂の廂。
そして室生寺といえば、何と言ってもこの五重塔(国宝)が有名である。五重塔の周りにも多くのシャクナゲが植えられている。
五重塔は平安時代に建てられたもので、総高16m強と、屋外に立つ五重塔としては最も小さい。東大寺大仏と同じくらいの高さである。
1998年9月22日、台風の影響で周辺の杉の大木が倒れ、五重塔に向かって左後ろの角の屋根を払い落とすようにして破壊してしまった。ただ、破壊されたのは屋根先で、塔の根幹には被害がなかったことで2000年までに修復されたのが現在の姿である。かつての朱の塗装がややはがれつつあった姿に慣れ親しんできた者としては、修復後の姿は以前とは雰囲気が違うこともあり、新しく建て直した別のもののようにも見えてしまうのは、今のところはやむを得ないだろう。
山内のシャクナゲはどちらかというと濃いピンクか白に近い薄めのピンクのものが多いように見受けられるが、五重塔のすぐ前の株だけは、やわらかく淡いピンクをしていて、とてもかわいい。
昨年もほぼ同時期の土曜日に室生寺へやってきてシャクナゲの風景を楽しんだが、その時もそんなに混んでいなかった。今年は日曜ということもあって昨年より人は多いものの、そこまで混んでいない。駐車場も、近隣のどこかには駐められる。秋の紅葉も本当に素晴らしい室生寺だが、どちらかというとそちらの方が混んでいるかもしれない。
今年も、1年で最も華やかな室生寺の風景を存分に楽しみ、満足して室生寺を後にした。
※注意※
2014/7/4〜8/26、仙台市博物館における「奈良・国宝室生寺の仏たち」展に数多くの仏像が出展され、不在となります。ちなみに、この期間は拝観料が一般で300円となります。
〒633-0421 奈良県宇陀市室生78
TEL:0745-93-2003
拝観料:一般600円
拝観について:金堂諸仏、弥勒堂諸仏、潅頂堂如意輪観音は常時拝観可(ただし金堂十二神将のうち2体は常時、奈良国立博物館へ寄託されている)※上記注意参照のこと
拝観時間:8:30〜17:00(4/1〜11/30)、9:00〜16:00(12/1〜3/31)
アクセス:近鉄大阪線室生口大野駅からバス(かなり本数が少ないので注意)
駐車場:周辺に有料駐車場が多数ある
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コメント
コメント一覧 (1件)
とても美しいので、室生寺の特集でお写真をお借りしたいと存じます。お返事をいただければ幸いです。