西明寺と金剛輪寺は車で5分程度の距離にあるが、百済寺(ひゃくさいじ)は湖東三山の中では最も離れている。とは言え、車で20分程度であろうか。田植えの準備がすすんでいる。琵琶湖周辺の田植えの風景は本当にきれいだ。
堂々たる石碑が百済寺への道であることを示している。
石碑の前には最近有名なこちらの方も。
山への急な坂を登って行くと、広い駐車場に辿り着いた。ユキヤナギがきれいに咲いている。
受付から入ると、まずは庭を見ていくように案内される。湖東三山は自然豊かということもあるのだろうが、どのお寺も立派な庭を有している。登録文化財である喜見院書院の庭であるこの庭園は、水量たっぷりの池と、うず高く積み上げられた岩が特徴的な池泉廻遊式ならびに観賞式の庭園だ。
鯉が悠然と泳いでいてなかなかよいが、鴨やサギを避けるためか、池の上に張り巡らされたテグスがすごくて、かなり情趣を損なっているのが残念だ。そのくらい立派な池ということも言えるだろうか。
庭の最上段には近江平野を一望できる遠望台がある。菜の花畑らしき黄色い区画があったりして春らしさを感じる。
緑まぶしい中、石段を登る。
仁王門に掲げられた巨大なわらじは、「百寺巡礼」でも有名な五木寛之氏の願掛けわらじだそうだ。
石段を登りながら感じるのは、石垣が多いということだろうか。石段の両脇も石垣に囲まれているようだ。それ故、重厚な雰囲気が漂う。
百済寺は飛鳥時代創建で、推古天皇の時代に聖徳太子の御願によって、朝鮮半島の百済国の龍雲寺を模した形で創建されたという。平安時代には天台化、規模も拡大し「湖東の小叡山」とまで称されるようになり、 戦国時代の争乱の中で焼失と再興を繰り返しつつ、佐々木六角氏によって観音正寺と百済寺は城塞化されたという。そのため、百済寺は石垣に囲まれた寺院であったようだが、信長の安土城築城の際にほとんどの石垣が「石曳」によって持ち去られてしまい、今のものは江戸時代の再興が多いという。ただ、ところどころに石曳で運ばれなかった部分も遺されている。
最後の石段を登って本堂のある壇へと上がる。
本堂は江戸時代の建物で国指定重要文化財に指定されているが、百済寺には湖東三山の他の二山のように三重塔はない。
案内されて内陣へと入り、本尊のすぐ前へと立つと、思わず息をのんだ。
十一面観音菩薩立像(植木観音) 制作年代不詳 像高234.0cm 東近江市指定文化財
独特、これが第一印象であった。生まれつきいろいろな仏像を数多く拝見してきて、あぁこれは何時代くらいかなぁ、というのが型式学的や造形の雰囲気でなんとなく感じるものだが、この観音は一体いつの時代のものなのか、全く想像がつかないのである。
総高は3mを超える高さということもあって縦長なイメージがあるが、顔はかなり丸顔で、目鼻口が真ん中にキュッと寄っている。鼻梁が短いのが特徴的で、頬がややぷっくりしているように見える。金箔の剥がれなどもあり、相当に異様な雰囲気を放っていて言葉を失わせるものがある。
ひょろりとした中に丸顔、顔を突き出した感じなのが、古代の飛鳥や白鳳の金銅仏に通じる雰囲気というものを感じるが、それにしてもちょっとまた違うような…。とにかくよくわからない。
寺伝では、聖徳太子が師の慧慈に案内されてこの山に入った時、百済の龍雲寺の観音を造像するために木の上半分が供出されていたことがわかり、その下半分の根がついた部分でこの観音を彫った、ということらしい。そこから「植木観音」という別名がついているようだ。
お堂の中で流れていた説明によると、この像は百済の方角を向いているといい、龍雲寺の像と向き合っていたという。龍雲寺像は失われているものの、実際にそうだったとすると、この異様な雰囲気や聖徳太子の霊力のイメージとも相まって、鳥肌が立ちそうな話である。
中世の火災の難を逃れ、信長の焼き討ちの際には前日に8km離れた場所へ避難していたという。奇跡的に遺ってきた仏像である。
本来は55年に一度の開帳であったこともあり、大きな調査がされていないらしいのだが、近年、「国華」誌に調査結果が掲載されたようで、そこから少しこの像についての実像が見えてきたようである。その論文の内容については、神奈川仏像研究所のブログが詳しく、興味深い内容になっている。「国華」誌では、奈良時代にまで遡る可能性について触れているようだ。やはりひと目見た時の感想と同じく、謎そのものの像のようである。
その中から1枚だけ拝借。
こんなに前傾姿勢になっていようとは思わなかった。蓮肉と一体ということであればこの角度で作られたのだろうか。顔が突き出しているだけではなくここまで前傾であれば、迫り来る雰囲気も納得なのかもしれない。
十一面観音の厨子の前、両側には院派仏師作の2体の仏像(聖観音菩薩坐像、如意輪観音菩薩坐像・室町時代・東近江市指定文化財)が座っている。こちらもなかなかかわいくて良いが、何と言っても植木観音のパワーがすごすぎて両観音には集中できないものがあった。また次回訪れた際にじっくり拝観したい。
本堂の脇には「千年菩提樹」がある。樹齢推定千年なのだそうだが、とてもそうは見えない。それもそのはず、信長の焼き討ちの際に幹が焼けてしまったのだ。しかし熱が根まで回らなかったことで、何とか周囲から再生してきたものなのだそうだ。これも奇跡的で、何ともいろいろな不思議や謎のある寺院である。
百済寺境内は三椏(みつまた)が有名なのだそうだが、ちょうどたくさんの花が咲いていた。
湖東三山特別開帳のためのご朱印散華も無事に揃った。
湖東三山は正直なところ、どんな仏像がいてどんなお寺なのかよくわかっていなかったのだが、三山どのお寺の秘仏本尊もそれぞれに全く違う魅力を持っており、それぞれに惹きつけられた。そして三山とも、山に抱かれて緑に包まれた非常に美しい寺院であり、歩いていてとても気持ちのいいお寺であった。湖東三山PAから近く、紅葉の一大名所でもあり、またぜひ訪れたいと思った。
※湖東三山一斉開帳は、平成26年4月4日(日)〜6月1日(金)
【釈迦山 百済寺(ひゃくさいじ)】
〒527-0144 滋賀県東近江市百済寺町323
TEL:0749-46-1036
拝観料:600円(開帳期間以外は500円)
拝観時間:8:00〜17:00
アクセス:近江鉄道八日市駅下車タクシー15分 春秋はシャトルバス運行 ※開帳期間中の土日祝は河瀬駅からシャトルバスあり
駐車場:広めの駐車場がある(無料)
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コメント
コメント一覧 (2件)
ソゾタケさんこんばんわー
めっちゃワクワクする湖東三山レポありがとうございます。
読んでてドキドキしました。
相変わらず写真凄いですね!
21日に母を連れて湖東三山再訪してきます!
祇是未在を参考にじっくり見てきますね。
あと。。。御朱印帳、めっちゃ良さげですね
どちらでお買い求めになりましたか?
>迦楼馬さん
こんばんはー。いつも本当にありがとうございます!迦楼馬さんのブログもいつも
楽しみにさせていただいています。
湖東三山へお母様と再訪とは!とっても素敵ですねー。僕もできればもう一度
訪れたいと思いますが、さすがになかなか(笑)でも湖東三山は行って本当に
良かった。素晴らしかったですよね。
ご朱印帳は平泉の中尊寺のものです。こちらのご朱印帳は開くと表紙と背表紙がくっついて
国宝の華鬘になるという、とても素敵なデザインです。そして紙質がとてもよくて、
よくお寺の方に喜ばれますよ。
もし中尊寺でお求めになる時は、本堂脇の御朱印所ではなく金色堂の中でお求めください。
そこで買った人だけは見開きで金色堂のご朱印がいただけます。僕はそれを知らなかったので
見開きはいただけませんでしたw