城崎に泊まった翌日は鳥取へと抜け、三佛寺へと向かったが、ゲリラ豪雨に見舞われ、準備万端だったにも関わらず、入山禁止で投入堂登拝は叶わなかった。幸いにして、修理が完了した秘仏本尊・阿弥陀如来立像(藤原時代)がご開帳されていたために拝観できた。また、康慶作を初めとする蔵王権現像を拝観して、次回の登拝を楽しみに、雷雨で参道が川のようになっている三佛寺を後にした。三佛寺については無事に登拝できた折にでも改めてブログをしたためたいと思う。
翌朝、宿泊した三朝温泉を出て一旦北上し、倉吉の打吹玉川地区を抜ける。倉吉駅辺りの市街地からやや南に離れたこの地区は「白壁土蔵群」として国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、最近注目を浴びているという。
後ろ髪引かれるところもある打吹玉川地区を抜けて、今度は南西方向へと国道の一本道を走る。今日は雲は多いものの、いい天気だ。いや、昨日だってゲリラ豪雨さえなければ…、いやもうやめよう。今回は縁が無かったのだ。
のどかな田園を走ること30分ほど、国道から左折し、山へと登りつつあるようなところにある小さな集落へと入っていく。ここは関金温泉という温泉地である。温泉宿は道筋に見かけるものの、歩いている人すら見かけない。のどかではあるが、相当に寂れた温泉だなという感じがする。ところがこの温泉は三朝温泉に次ぐ日本2位のラドン放射能を有している名泉なのだそうだ。平日朝の様子で判断してはいけないのである。
狭い道を上っていくと、右手に赤い幟が立っているお寺が目に入る。ここが目的地の大滝山地蔵院である。
門前を一旦通り過ぎると、すぐ右手に駐車場への入口があった。
道は狭く集落も小さいが、お寺はなかなか立派だ。斜面の限られたスペースをうまく使って、明るい開けた境内になっている。
大滝山地蔵院は天平勝宝8年(756)に行基が開基したと伝えられる古刹である。現在は真言宗であるため本尊は大日如来。その本尊を祀っていると思われる本堂は堂々たる建物だが、今回のお目当てはその本堂の前にあるコンクリートのお堂である。
ここは拝観が自由で、特に拝観料の指定もなく、鍵もかかっていない。ガラリと引き戸を開けて中に入ると、うわっと声を挙げてしまった。
木造地蔵菩薩半跏像(鎌倉時代)像高358.6cm ヒノキ材寄木造 国指定重要文化財
足先から頭までの高さが3.5mもあるという巨大な地蔵菩薩である。半跏像なので下ろしている足の分だけ像高が高くなっているが、お尻の位置からは丈六像の大きさになるだろうか。それでもおそらく2m40cmよりは大きいので、大きめの丈六ということが言えるだろうか。とにかく大きい。
この仏像は現在は関金温泉にあるが、もともとはここからさらに2kmほど山に入った、現在の大滝山観音堂の辺りにあったという。廃仏毀釈から守るために、本坊地蔵院を分離してこの地に移設、地蔵菩薩もこちらに移動させたのだそうだ。こんな巨大な仏像をよく移動させて守ったものだと思う。
像内の修理銘には、寛永17年(1640)に地元住民の手によって修理再興された像であることが記されるが、像自体は源頼朝配下の著名な武士である佐々木高綱が造像したと記されているそうだ。寺院も頼朝の命によって髙綱が再建している。
佐々木高綱と言えば、梶原景季との宇治川の先陣争いが有名であるが、平家滅亡後は備前守となった折に山陰地方にも恩賞地を得ており、松江には高綱の開基と伝わる寺や、高綱が背負ってきたと伝わる銅造阿弥陀如来も存在する。高綱自身はその後、東大寺の再建の木材の調達で功を為したり、家督を息子に譲ってからは高野山で出家したりと、なかなか仏教に信心深き人だったようだ。
足も立派だが、手も分厚い。宝珠も大きい。錫杖も見事なものである。
地蔵菩薩の前に2体並べられていたこちらの像が気になる。
それにしても圧倒的な大きさと迫力である。鎌倉時代らしいキリリとした雰囲気も伝わってくる。佐々木高綱が造立したということであれば、武士の好みであるのか、それとも高綱本人の特別な意思であるのか。先日ご紹介した茨城の鉄仏のような荒々しさが東国武士に好まれたとするならば、やはりこれは高綱本人の信心深さによって形作られた慈悲の心なのかもしれない。
大きさにばかり圧倒されてしまいそうになるが、よくよく拝見すると、その表情はどこかあどけなく、そして目には深い思いがこめられているようにも見える。廃仏毀釈という悲しい出来事を乗り越えて、今はこうして小さな温泉街を守っていることをどのように感じていらっしゃるのだろうか。
お堂の前には「一町地蔵」という石仏の地蔵がある。この地蔵院から大滝山観音堂まで、一町の距離ごとに地蔵が置かれているという。最初と最後だけは坐像であとは舟形光背を背負った立像らしい。スタート地点のこちらは坐像である。
背負った山の向こうから昇ってきた太陽が、まだ午前中の穏やかな陽光を小さな温泉街に注ぐ。今日もこれから暑くなるのだろうか。
【大滝山地蔵院(おおたきさん・じぞういん)】
〒682-0411 鳥取県倉吉市関金町関金宿1218
TEL: 0858-45-2656
拝観:特に指定はなかった
拝観時間:境内自由(開扉している時間は不明)
アクセス:JR倉吉駅から日交バス関金バスセンター行きで35分、「関金温泉」下車、徒歩10分
駐車場:あり(無料)
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